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人生 山あり 谷あり 田んぼあり「地域おこし協力隊員 百姓になる」連載 vol2

 貢さんは76歳、私より20歳以上年長だが、とにかく体が動く。単純に体力がある、ということではない。どんなに疲れていても、作業の所作が丁寧なのだ。肉体と精神を繰り返し鍛錬してきたような、強靭さがある。

 私は疲れてくると少しでも楽をしようと所作が雑になり、貢さんのような強靭さがない。一緒に仕事をすると、それがよく分かる。貢さんと一緒に農作業をして最初に学んだことは、私が百姓になるにしては「なかなかのヘタレ」ということだった。

 最初の仕事はエダマメの防除作業だ。エダマメは害虫がつきやすい。良品質を維持するためにも、適切な防除が必要になる。笹神地区は転作田を利用してエダマメ栽培をしている農家が多く、JAが「えんだま 縁玉」というブランドを立ち上げて全国販売している。貢さんも転作田を利用してエダマメを3反ほど栽培している。

「自分に農薬が掛からないよう風向きに気をつけるように」
軽トラから降りて、風向きを確認しながら貢さんが言う。農薬散布では風向きが重要になる。風上に向かって農薬を散布すれば、風に戻されて、農薬が自分の身に降りかかってしまう。風上から風下に向かって散布するのが鉄則だ。

エダマメの収穫作業。日曜日の朝の5時、快晴。エダマメは鮮度が命

 新潟県はエダマメの作付面積は全国トップだが、出荷量になると、がくんと順位を落とす。新潟県民はエダマメが大好きで、県外出荷するよりも自分たちで食べてしまうという。フードマイレージ的にも、新潟のエダマメはとても優秀である。

 私も畑を借りて自家消費用にエダマメを栽培して、どんぶりに山盛りにして食べている。東京の居酒屋で小鉢に入ったエダマメをちまちま食べていたことを思い出すと、馬鹿らしくなる。

 エダマメ畑の道路脇に停めた軽トラの荷台には大型エンジン散布機と薬剤が入ったローリータンクと呼ばれる液体運搬用のタンクが積んである。エンジン散布機には消防ホースのように先端にノズルが付いたホースが備えてある。そのホースを畑の向かい側まで引っ張っていき、薬剤を散布しながら復路を歩く。

 このあたりの基本的な耕地区画は3反で、横幅30メートル、縦幅100メートルになる。つまり、100メートルほど狭い畝間(うねま)を歩きながら、ホースを向かい側まで引っ張っていかないといけない。

 まずはどの畝間を歩くか、貢さんが畑の畝数を数えている。散布機の飛距離を考えながら、どの畝間を歩けば効率が良いかを計算する。私は要領が分からないから、指先で畝数を数えている貢さんの背中を眺めている。

※反(たん)=田んぼや畑の面積を表す農業用語。約1.000平方メートル。坪数だと300坪。
※畝(うね)=作物を育てるために、畑の土を両脇から寄せて台形状に細長く土を盛り上げた部分。そうすることで、水はけや通気性が良くなり、作物が育てやすくなる。畝を作ることを畝立てと呼ぶ。
※畝間(うねま)=畝と畝の間にある低い部分。畝には作物を植えているので、畝間が通路になる。

「ここから6畝ごとに向こうから」
畝間を指差しながら、貢さんが振り返って言った。どの畝間も同じに見える。目を離したら、どの畝間を歩けば良いか、きっと分からなくなると思って、すぐに貢さんのもとに駆け寄って、足で畝間に線を引いた。貢さんは軽トラをバックさせて最初の畝間に移動する。どうやら2往復ほどで済みそうだ。

「じゃあ、行ってきます」
消火に向かう消防士のような表情でノズルを持って、軽トラの荷台に立つ貢さんを見上げた。初めての作業で緊張しているのか、自分の顔が少しこわばっているのが分かる。

「いってらっしゃい。気を付けてね」と貢さんは、もちろん、言わない。荷台にじっと立って、微かに頷く。

 貢さんは荷台の上から復路を歩く私の動きに合わせて、ホースを巻き取っていく係だ。私は「なかなかやるじゃないか」などと貢さんに褒められたいから、妙に力んでいる。承認要求丸出しである。肩に力が入り過ぎて、すでに、少し疲れている。

vol3に続く

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